2009年01月05日

『残像に口紅を』読了(再読)

 この前書くと言って書き忘れてたこのネタ。筒井康隆氏の『残像に口紅を』です。

 10年くらい前に学校の先輩に(文庫版を)借りて読んで以来、もう一度読みたいとずっと思い続けていた本ですが、なんと文庫でなくハードカバー版を100円で手にいれてしまいました。文庫ではどうだったのか忘れちゃいましたが、こちらにはちょっとしたギミック(まぁ言ってみれば袋とじ)付き。

 ワタシの中で筒井康隆と言えばこの『残像に口紅を』と、先日話題にした『メタモルフォセス群島』所収の「毟(むし)りあい」なんですよ。といっても筒井康隆氏の本は『メタモルフォセス群島』とこの『残像に口紅を』しか読んだことがないので当たり前と言えば当たり前なのですが、そういう意味でなくたとえ他の作品を色々読んでいたとしてもやっぱり私の中ではこの二作品は外せません。強烈なインパクトを読み手に与える凄い作品です。因みに『メタモル〜』の中では「走る取的」が同じく凄いインパクトでしたが、「毟りあい」は(新潮文庫版の)『メタモル〜』の一番最初に収められている作品なので、単純に「一番最初に読んだ筒井作品」ということでのインパクトでもあったんですけどね。「走る取的」が最初だったら…いや、それでも「毟り合い」は凄いっすよ、えぇ。

 そんな話はどうでもいいとして、『残像に口紅を』の紹介です。どういう作品かと言うとですね、話の内容はさておいて、文章自体がギミックなんです。なんと、小説の中からどんどん文字が消えていきます。50音の「あ」とか「ま」とか「へ」とか、どんどん消えていくんです。消えるというか、「この字は今後使っちゃダメ」っていう縛りが筒井氏自身にどんどん課されていくわけです。因みに、「あ」は最初から消えている字として一切この小説に出て来ることはありません。しばらくすると「ぱ」が消えます。小説の初期の段階で早くも主人公は「パン」を食べることができなくなります(パンの存在も記憶も小説内から消えてなくなります)。小説が進行するにつれて字はどんどん減っていきますが、おかまいなしに話は続いていきます。凄いです筒井康隆。天才です。この作品の真骨頂は何といってもほとんどの字が無くなってしまった第三部。10ページくらいしかありませんが、既に「あ・ぱ・せ・ぬ・ふ・ゆ・ぷ・べ・ほ・め・ご・ぎ・ち・む・ぴ・ね・ひ・ぼ・け・へ・ぽ・ろ・び・ぐ・ぺ・え・ぜ・?・す・ぞ・ぶ・ず・づ・み・ざ・ど・や・じ・ぢ・き・で・そ・ま・よ・も・げ・ば・り・ら・る」が消えている状態で、10ページちゃんと小説が進行します。「一体最後に残る字は何になるのか?」「残り5文字とか4文字になった時に意味不明な文章にならないのか?」という変なスリルを味わいながらの終局までの怒濤の展開は圧巻の一言です。

(「ぜ」と「す」の間が「?」に文字化けしちゃう方へ…これは「う」に濁点です。Seesaaが投稿時にエンコード変換しちゃうんかなぁ???)

 
 書き忘れ追記。そういえばこれって、日本語だからこそありえる小説形態なんだよなぁ、というところもミソです。英語の場合26文字しかないからすぐ終わっちゃうし、中国語は漢字がありすぎますし。それに、考えてみればこれって日本人(及び日本語を解する人)のみが楽しめる、すなわち原書でしか楽しめない絶対に翻訳不可能な小説でもありますね。

残像に口紅を残像に口紅を
筒井 康隆

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posted by SeireiK at 01:24| Comment(4) | TrackBack(0) | BOOK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
クラリネットですね。分かります。
Posted by バタアシ at 2009年01月06日 21:30
むぅ、バタアシさんのコメントがなかなか反映されない…。

あ、ごめんなさいバタアシさん、素で意味がわかんないっす…。最後に残る言葉がクラリネットっていう意味ですか?
Posted by SeireiK at 2009年01月07日 01:08
いや、レスしてたのすっかり忘れてたw

ただ単純に
「ドとレとミと…シの音が〜出な〜い♪」
が浮かんだんですよ(ドーン)
Posted by バタアシ at 2009年01月13日 23:10
あ〜、「ぼくのだいすきなくら〜りねっと♪」ってヤツですか〜。納得。実はその歌、最初の出だしのとこしか歌詞知らなかったんですよ(今調べてわかった)。保育園とかで歌った記憶が無いんですよね。

それにしても、ドとレとミとファとソとラとシが出ないってお前どんだけこわしとんねんって話ですよねぇ(笑)。
Posted by SeireiK at 2009年01月14日 00:12
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