まさかまさかの105円であのぶ厚い陰摩羅鬼の瑕が売ってました。まだ百鬼徒然袋とか読んでなかったんですがこれはもう買うしか無いでしょう。因みに「魔王の聖域」「ザラゴス」と合わせて315円也。おそるべしブックオフ。
つらつらと所感をば。全749ページの大作ですが、京極氏の文体はとことん読みやすいのと、会話も多いのでつらつらつら〜っと読めてしまいました。前に読んだ「ザラゴス」なんかと比べると圧倒的にこちらの方がページ数も多いのですけど、全体の読破スピードはあまり変わらない(むしろ早い)という…。おそるべし京極作品。
『塗仏の宴』で出て来た新キャラクターや新たな展開はなりをひそめ、心機一転しきりなおしという印象です。これまで京極作品(あるいは京極堂シリーズ)を読んだことがない人がこの作品を最初に読んでもあまり読みにくさを感じずに読めるのではないでしょうか。というかコレから読み始めて「自分には合わん」と思ったら他の作品もダメですたぶん(笑)。
純粋なミステリとしての感想ですが、私は今回は読んでる最中に(190ページまで読んだ段階で)全体の筋書きや犯人があっさりわかってしまいました。っていうかこれまで京極堂シリーズ読んでた人ならすぐピンと来たんではないでしょうか(そういった意味でも初心者向けです)。いつもは意味不明な超探偵榎木津のぶっ飛んだ台詞もおかげさまで今回は飲み込めまくり。ほとんど一度読んだものを再読している気分でした。なので純粋に「探偵小説」「推理小説」としての出来映えは「レベルが低い」と言わざるを得ないのですが、展開が全部わかってしまってもなおかつ楽しめるのが京極作品の凄い所。相変わらずの妖怪蘊蓄(うんちく)、姑獲鳥における新たな見解、林羅山の企み等読み応えたっぷりで、190ページ以降も最後の749ページまで飽きること無く楽しめました(まぁ、展開がわかってしまってからはちょっと進行がかったるく感じはしましたが)。
あと、読んだ人にしか分からないような書き方で内容についてちょっと。犯人像や動機などの展開は全て予測した通りだったんですが、「伯爵の父上」がやったことを「伯爵」が知らなかった、というところまでは読めませんでした(伯爵の行動は父上を踏襲する形で行われていたのかなと思いましたんで)。
他に気づいた点としては、720ページに出て来る「美味しい話」というフレーズ。こういう使い方で「おいしい」という表現をしたのはたしか糸井重里氏の「おいしい生活」というコピーが最初だったというような話を聞いたことがあるので、時代考証的にこの言い方はマズイのでは?と思いました。
それと、作品中に「私達はそう思った」という文章が出て来るのですけれど、考えたら不思議な文章ですコレ。私以外の人が考えてることなんてサトリでも無い限りわからないわけで、厳密にこの文章を成り立たせるためにはこの後で「(文中の)私」がその他の人たちに「ねぇ今こう思った?」と聞いて確認したりとかしなきゃいけなくなります。もしくは、「私はこう思ったけどきっと他の人たちもそう思ったに違いない」というニュアンスとしての表現ですね。これはちょっと不可思議で面白い表現だなと感じました。
あと、前回にも紹介した通り京極氏はInDesign+PDFで入稿しているらしいんですが(それをやり始めたのがちょうどこの『陰摩羅鬼の瑕』の頃なのではないかと)、作品冒頭でしっかりヒラギノフォント使用と明記されています。これがまた他の本と比べても何の違和感もなく実に読みやすい。ビバ、ヒラギノフォント! ほとんどの人にはどうでもいい話でしょうが、個人的にはMacユーザーであることを誇らしく感じる瞬間なのであります。
最後に豆知識。妖怪好きのMacユーザーであればことえり用の辞書ツール「NADの妖怪辞書」を使用している方もおられるかと思いますが、なんと最近のことえりではデフォルトで「陰摩羅鬼」が変換できます(!)。陰摩羅鬼が変換出来るということは、大抵の京極作品のタイトル(に出て来る妖怪)は変換出来そうです。そういえばことえりって何気に「聖飢魔II」も変換出来るんですよね(←ローマ数字は機種依存文字なのでここではネチケットとして「I(アイ)」を二回重ねる書き方に変えてますけど)。っていうかことえりって実は芸能人の変換に強いです。
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