2010年04月18日

モーチュアリー(2)

モーチュアリー(2)>

「その鍵が必要なんだ、死体さん…君はこの世が恋しくはなさそうだ」 

メスで数回突き刺し、その死体は今や動かぬ死体へと変わった。鍵を手にいれ、部屋にあるドアの一つを開けた。

「ちょいとアドバイスだ、旦那:今後は黙ってることにするけど ー 必要に迫られない限り、死体を片っ端からデッドブックに入れる(=殺す)ことはないよ…特に女の死体はね。それに、奴らを殺してるとここの管理人を引きつけちゃうからね」

「お前、そんなこと前に言わなかっただろ…誰がここの管理人だって?」

「奴らは“ダストマン(Dustmen・塵人党)”って言うんだ。すぐ見つかる(見失うことはない)さ。奴らは顔面の黒い死後硬直に取り憑かれちゃってる、おぞましい(グールめいた)「死の崇拝者」のイカれた団体なのさ ; 奴らは、人は誰もが皆死ぬべきである、と信じてる…それも遅いよりは早い方がいいとね」

私はその管理人とやらをいぶかしんだ。

「混乱してきた…そのダストマンというのは、私が逃げるかどうかなんてことをどうして気にするんだ?」

「オイラの言うことを聞いてなかったのかい? ダストマンは誰もが死んじまった方がいいと信じてるんだ、それも、遅くよりは早く、だ。アンタだって、今見てきたあの死体どもはさ、とっととデッド・ブックの中に入れられちまう方が外に居るよりいいって思うだろ?」

一度始めると、疑問が次々沸いてきた。

「ここの死体は…彼らはどこからやってくるんだ?」

「死は毎日プレーンを訪れるよ、旦那。このよたよたさんたちはみんな、死後に自分の体をここの管理人に売っぱらっちまうことにした哀れなおばかさんたちなのさ」

「さっき、女を殺すなと言ったな、それは何故だ?」

「アンタ"マジ"かい? いいかい旦那、この死んだ女の子たちはさ、オイラたちみたいなずうずうしい乱暴者にとっちゃラストチャンスなんだよ。オイラたちは“礼儀正しく”する必要がある…鍵のために彼女らをかっ捌いたり、四肢を切り離したり、そんなようなことはしちゃダメだってことさ」

モーテがどこへ導こうとしているのか、私には理解出来なかった。

「ラストチャンス? 何を言ってるんだ?」

「旦那、奴らは死んでる、オイラたちは死んでる…オイラがどこへ行くのかわかる? えぇ? えぇ?」

今や理解は出来た、が、私には信じ難かった。

「ふざけやがって」

「旦那、オイラたちはもう、この足を引きずっている淑女たちと口火を切っちまったんだ。オイラたちは“みぃんな”少なくとも一度は死んじまってるんだ:我々は話すことがあるだろうさ。奴らは、オイラたちみたいな死の経験を持った人々を賞讃する(歓迎する・気に入る)だろうよ」

「だが…待て…私は死んではいないと、オマエさっき言ってなかったか?」

「あぁ…そうだ、“アンタ”は死んではいないかもしれない、でも“オイラ”はそうなのさ。オイラの見地からするとだね、オイラがここで見た、素晴らしくたくましい解剖用死体たちと墓を共有することをオイラは気にしないだろうね」 

まるで先を見越しているかのように、モーテは歯をかちかちと鳴らし始めた。「もちろん、管理人たちは初めにそいつらを分けなきゃいけないんだろうけど、そんなことしそうにないよな…」

モーテは続けた、「いいかい旦那、アンタ死とキッスしちゃった後でまだちょっと混乱してるね。そこで二つ程アドバイス:一つ、もし質問があればオイラに“聞く”こと。わかった?」

「わかった…忘れないようにするとしよう」

「二つ、もし忘れっ“ぽく”なってきたなと思ったら、書き留めるんだ ー 重要“そう”なことに出会ったらいつでも、忘れないように手早くメモすること」

「本来私が持っていた“はず”のその日記を手にいれたら、そうしよう」その日記を奪い去ったのが誰であれ、怒りが沸いてきた。

「新しいのを始めようよ、旦那。無駄にはならないって。この辺りには羊皮紙もインクもたっぷりあるじゃん」

「ふーむ。わかった。やってもいいだろう…新しいのを始めることにしよう」

「そいつは移動経路を残すために使うんだ。重要そうなことがぼんやりとわかってきたら、例えばアンタが誰なのかとかそういう…あるいはもっと重要な、“オイラ”は誰なのか、とかさ…アンタの記憶をリフレッシュするのにそいつを使うんだ」

次の部屋にはさらにたくさんの…ゾンビがいた。彼らは歩き回っており、ほとんどのものが明らかにダストマンによって与えられた仕事に従事していた。だが、とりわけそのうちの一人が私の注意を引いた。その男の死体は、三角を描くように(床を三角形状に)騒がしく歩き回っていた。いったん三角の角の一つに到達すると、そこで止まり、向きを変え、次の角に向かってよろよろと歩くのだ。頭蓋の横には「965」のタトゥーがあった。私が近づくと、そいつは停止して私を見つめた。

「へぇ、このバカにルール・オブ・スリーで歩くのを止めろって言うのを忘れちゃった奴がいるみたいだな」 と、モーテが言った。

「どういう意味だ?」

「この死体たちは、屋根裏部屋(=脳のこと)にそれほどたくさんのものは残っちゃいないんだ、だから一度に一作業以上のことは出来ないのさ…奴らが何かするように命じられたら、誰かが止めろというまでやり続ける。このかわいそうなオバカさんは多分仕事を終えた後で、何も言われなかったんだな。

「“ルール・オブ・スリー”。それはどんな意味なんだ?」

「え?うん、ルール・オブ・スリー(三数法)ってのはプレーンに関する“法”の一つかな、三に通じるように意図されたものだとか…あるいは、全ては三つのパーツで出来ているだとか…あるいは、常に三つの選択肢がある、だとか、その他モロモロ、枚挙に暇が無いや」

「オマエがそれに信念を持っているようには聞こえないな」

「アンタがオイラに質問するんなら、そいつは洗濯一回分だ。もしナンバー(数)を探してるんなら、どんなナンバーでも、そしてそこに偉大な意味を付加しようとするんなら、アンタは偶然の一致を大量に見つけることだろうね」

私は、三角形に歩くその死体を残し、次の部屋へ入った。その部屋の中央には、私が見た中で最初の、生きている人間がいた。明らかにダストマンの一人だ。彼は巨大な本に向かって書き綴っていた。

この書記はかなり老いているように見える…彼の皮膚にはしわが寄り、古い羊皮紙のように黄色く細いシミがある。やせこけた顔には炭灰色の目、そして大きな白いあごひげが彼のローブの前を滝のように流れ落ちている。彼の呼吸はぼろぼろで不規則だが、時折咳をしていても羽根ペンの動きが休まることはない。彼が書き綴っている本には何千もの名前が記されているに違いない。私が近づいた時にも、彼は自分のしていることから目を上げなかった。

モーテが割って入った。「うぉう、旦那! 何やってるんだい?!」

「私はこの書記に話しかけようとしているんだ。私がどうやってここに来たか、彼は何か知っているかもしれない」

「おいおい、アンタのボーン・ボックス(口)をダストマンたちとガタガタ鳴らす(おしゃべりする)のは最期にするべきなんだってば ー」

モーテが暴言を終える前に、その書記は猛烈に咳をし始めた。少しすると、咳の発作は徐々に弱まり、また苦しそうなかすれた呼吸をし始めた。

 「それでさ、我々は“特に”病気のダストマンたちとはオシャベリしちゃダメなんだって。カモン、行こうよ。早くこの場を与えりゃそんだけ、笑いが、賭けが ー 」モーテが終える前に、その書記の灰色の目が私を見て瞬いた。

モーチュアリー(3)へ続く)


<メモ>

basherは注釈があるが訳しづらい。「乱暴者・ちんぴら」くらいの訳が妥当なところか。

Course, 多分「Of course」

a load of wash
「a load of laundry(洗濯一回(分))の変形? 「重荷が洗い流される」の意味か?

The quicker we give this place the laugh, the betー
なんだか全然わからない。「the比較級〜the比較級」だとは思うんだけど…???
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