これまで読んだ二作よりも更に取っ付きやすいというか、読みやすさがアップしているというのが最初の印象。最近先生はライトノベル界に興味を示していらっしゃるようで、それが良い方向に影響しているのだろうと感じました。ラノベっぽい。(と言っても私自身ラノベと呼べるものは「電波女と青春男」の一巻しか読んでいないので、私に取って「ラノベっぽさ」というのはあくまでも想像でしかないのですけども)
「先生の本は読者をどこに導こうとしているのか解らない不思議なもやもや感、読んでいる最中の不安感がある」と直接申し上げたことがあったんですが、今回に限ってはそれはほとんど無し。章と章の間に挟まれる小エピソードがそれと言えばそれっぽかったけども、これは一般のミステリでも見られる「初読ではよくわからない伏線」の類いだしね。これまでに読んだ三冊の中では一番「普通の小説」っぽいというか、ライトな感覚の読み応えでした。
(以下多少ネタバレ、多少ですが。ネタバレというより内容紹介程度に)
にもかかわらず、最後にはやっぱり芦辺拓氏ならではの「うむむ、そこにはオイラ全く気がつかなかったわい」と唸ってしまう、伏線の収束がしっかりありました。これはホント素晴らしい。流石先生、参りました。
トリックに関しては、舞台が舞台なので、それに相応しいトリックが使われます。なのでどうしても釈然としない感はあるのですが、よくもまぁこのスチームパンク世界における「常識」を想定した上でそれに見合った事件並びにトリックを発想出来るなぁ、と感心しきり。因みに本の帯からすると三つの事件(謎)がありそうに思えるのだけども、トリックがある殺人事件としては大きく数えると二つ(+小二つ)。これらに関しては今回は小粒感が否めずちょこっと物足りない印象がありましたが、今作は何よりも虚構の「スチームパンク世界」を楽しむ、主役エマの冒険譚を楽しむ、という目的が大きいために、今回はこのくらいでいいのかな、という気になります(続編を切望と暗に申しあげておりますね、はい)。まぁ小粒と言いつつも、、、(ごにょごにょ)ですし。
(以下もうちょっとネタバレ。内容の個人的解釈。未読の方は注意)
最初の事件、時系列でいうと三つ目の事件ですか、あれは私は全く違うもう一つの解決が頭に浮かびました。隕鉄を被害者が両手に持って、バスケットボールでいうところのチェストパス(胸から手を前に突き出してパスする)を、天井に向かってやれば、そして落ちて来る隕鉄を頭部で受け止めれば自殺が可能なのでは?と・・・。まぁ腕の筋力が相当無いと無理ですけども、この方法ならボーリング球があれば密室内において謎の自殺が可能ですよ皆さん!と考えるとなかなかにガクブル。人って簡単に死ねるなー。(流石に怪我だけで済むかなぁ)
あと、あの方法だと隕鉄だけじゃなく砂も巻き上がらないかな。。。とか。
229ページの魔人(イフリート)のくだりは、初読時でも放射能・原発事故を連想させる文章でした。先生としてはやはりそうしたことが頭にあって、作品内でさほど強く主張されることはないながらもそうしたメッセージ性を感じさせられました。
286ページの12行目の「大陽」ってのは「太陽」の誤植なのかな。大きな太陽、の意味とも取れるのでわざとかも。
最後に。エマ・ハートリィはとても魅力的な主人公なので続編希望であります。そして先に述べてしまいましたけども、今回もやっぱり最後にしっかりと「ええええええ!?」とビックリさせてくれる芦辺作品でありました。そしてまたしても高らかにこう宣言することが出来、うれしい限り。芦辺拓に外れ無し!と。
あ、書き忘れてたけど装丁も素晴らしいです。カバー絵もお気に入りですが、カバーを取るとハード本っぽく見えるところもまた秀逸。
![]() | スチームオペラ (蒸気都市探偵譚) 芦辺 拓 東京創元社 2012-09-21 売り上げランキング : 312575 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
![]() | 電波女と青春男 (電撃文庫) 入間 人間 ブリキ アスキーメディアワークス 2009-01-07 売り上げランキング : 187559 Amazonで詳しく見る by G-Tools |