2007年10月25日

「ずる」は本当にいけないこと? 〜名作の条件とは〜

 非常に背徳的なタイトルですがもちろんゲームブックの話ですよ(笑)。ゲームブックにおける「ルール違反」「ずる」についてちょっと考えてみたいと思います。

 ゲームブックにおいて、建前としては「ずる」は御法度です。オトナなゲームブッカーはきちんとルールを守り、ページを指で挟んだりせず(苦笑)、出たサイコロの目には素直に従い、志半ばにして途中で死ぬようなことがあったら潔くパラグラフ番号1に戻ってもう一度アタック!というのが求められるべき正しい行為です。ルール違反なんぞはオコチャマのやること。戦闘を飛ばすなどもっての外。ゲームブックは正しいルールとサイコロの目に則ってこそその真価が最も味わえるというもの…。それは確かにその通りです。しかし、ちょっと考えてみて下さい。この21世紀の現在において今なおゲームブックを楽しむ世代というのは大半が数十年前のゲームブック全盛時代に小・中学生だった人たちなのではないかと思われますが(現在の小・中学生にも流行って欲しいな〜)、彼らがゲームブックを遊んだその当時、果たして「ずる」をしなかった子供はどのくらいいたのでありましょうか???

 彼らはずるをしました。というか私はしました(笑)。FFシリーズをやる時は「技術点12・体力点24・原運点12」がデフォルトでした。唐突なバッドエンド(サドンデス)に会ったら「コンティニュー!」と叫んで前のパラグラフに戻るなんてのも当たり前でした。し・か・し、当時を振り返ってみてそれでそのゲームブックはたやすく解けるようになりましたか?と言われるとそんなことはありませんでした。また、当時を振り返ってみてじゃあそのゲームブックがつまらないものだったか(つまらなくなったか)というとさにあらず、そういう「ずる」をしてもやっぱり面白いゲームブックは面白いものでした。

 ここで例としてスティーブ・ジャクソンの『ソーサリー』やFFシリーズ、J・H・ブレナンのグレイルクエスト(ドラゴン・ファンタジー)シリーズを取り上げます。ジャクソンのソーサリーでは(実際にプレイされた方はよくご存知でしょうが)「技術点12・体力点24・原運点12」であっても面白いようにコロコロ死ねます(笑)。ブレナンのグレイルクエストシリーズなどは、はっきり言って読者がずるをすることを前提に書かれているかのような印象すら受けます。そもそも「夢時間」なんてあんな危険なもの、まともにプレイしようとしたら絶対に利用しないわけですが(笑)夢時間(に限らずブレナンのゲームブックはどの箇所も)読んでいて楽しいですよね。

 さて、ちょっとゲームブックの歴史(成り立ち)について考えてみましょう。知ってる人はよくご存知の通り、そもそもゲームブックはTRPG(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム)を簡略化して一人でも楽しめるようにしたものです。これが本邦においてはゲームブックの輸入の方が先に行われたためにゲームブックはTRPGの入門的な役割を果たすことになったのですが、もとはと言えばゲームブックはTRPGへの進化の過程にあるものではなくむしろ逆で、TRPGからの進化・発展形であったわけです。ジャクソン(とリビングストン)はTRPGを書籍化するに当たって戦闘ルールやステータスデータを大幅に簡略化しました。FFシリーズにおけるステータスは「技術・体力・原運」だけです。そしてサイコロ運。至ってシンプルです。これはおそらく、彼がゲームブックというもののカタチを考える際、「ブック」部分に特に重きを置いていたのだろうということです。TRPGの欠点(多人数における長時間プレイを強いられる)を無くし、そのエッセンス、長所(現実とは異なる物語世界の冒険活劇を楽しむ)だけを凝縮したもの、それがゲームブックの求められるべきスタイルでした。よく当時のゲームブックの帯に「電車の中でも楽しめる」とか書いてありましたよね。また、手元にサイコロが無くても遊べるようにサイコロの絵がページ隅に印刷されているものも多かったです。まぁソーサリーなんかは電車で遊ぶにはかなり無理があるんですが(苦笑)、この「電車の中でも楽しめるかどうか」という視点は実は私にとって、ゲームブック評価の際のちょっとした注目ポイントであったりします。もちろんバリバリにマッピングが必要なゲームブックも大好きなんですが、この「電車の中でも」というのはゲームブックを考える際に忘れてはならない、しかし(特に日本では)意外に軽視されている部分ではないだろうかと思います。

 話を戻します。ジャクソンは戦闘ルールを徹底的に簡素化しましたが、戦闘そのものを無くしたりはしませんでした。これはTRPGにおいて戦闘というものが欠くべからざる魅力の一部であったからに他なりません。しかし、極力簡単なものにしてしまいました…そう、すっ飛ばしてもそれはそれで構わないとでも言うかのように。ジャクソンのゲームブックの面白さはそのパラグラフ構成やトリックの巧みさ、ストーリー展開、舞台設定等がメインであって、サイコロを振る戦闘そのもの(だけ)が面白いわけではないのです(むろんソーサリーのように呪文を駆使した戦闘は除きますが)。先に述べたように我が国ではまずゲームブックありきで、TRPGはゲームブックから派生する形で展開していきました。雑誌『ウォーロック』でもFFシリーズの「技術点」だけでは物足りない人のために色々なステータス案が提示されたり、TRPG(T&T等)のルールをゲームブックに導入する方法等、ゲームブックのルールをより発展させるという記事が載っていました。ゲームブックしか知らない人にとって、あるいはゲームブックとコンピュータRPG(当時はファミコン全盛時代)を比較した場合、「戦闘部分が物足りないな」と思うのはごく自然なことであり、ここをもっと面白くしようという動きや、その方向性を推し進めていった結果TRPGの方へ移行していく人々が現れていったこともまた自然の成り行きなのですが、元々TRPGのエッセンスを凝縮する形でゲームブックを作った(と思われる)イギリス人のジャクソンの場合は、ゲームブックにおいて戦闘部分を強化・欠くべからざるものにするという方向性はおそらく頭になかったのではないかと思われます。何故ならゲームブックでそちらの方向に行かずとも、複雑な戦闘の面白さを満喫したいのならTRPGそのものをやればいいわけです。ジャクソンがゲームブックを生み出す際には(ある程度TRPGへの入門・橋渡しとしての役割も考えた上で更に)「ゲームブックにしか味わえない面白さ」を念頭に置いていたであろうことは間違いなく、彼の作品群は戦闘をすっ飛ばし「ても」面白いものになっていますし、戦闘に勝利できたとしてもゲームオーバーになるシーンは山ほどあります。

 ただ、ゲームブックの概念・基本形を確立した彼は少々天才過ぎました。『バルサスの要塞』と『ソーサリー』シリーズにおいて、彼は「ファンタジーTRPGのエッセンスを凝縮する」という意図においてのゲームブックという意味では、もう既に完全完璧な仕事をやってのけておりました。その後粗製濫造されたゲームブック群とは一線も二線も画す遥かな高みに、既に彼はいました。この後彼はホラー系(『地獄の館』)やSF系(『さまよえる宇宙船』『サイボーグを倒せ』)といった方向性を模索したり、パズルゲームブックというジャンル(『魔術師タンタロンの十二の難題』)を開拓したりしましたが、「あまり同じことはやりたくない(←『ウォーロック』誌によると当時こう言っていたらしい)
」という彼の性格もさることながら、ファンタジー・ゲームブックの進化に関して彼は既にある程度の見切りをつけていたのではなかろうかと思います。そんな彼が「ファンタジー・ゲームブックの集大成」として執筆した『モンスター誕生』については以前かなり詳しく取り上げましたが、ここでもう一度考察してみます。以前はこの本が「激ムズ」であることを強調しつつもかなり肯定的に紹介しました(実際凄く好きな作品です)が、はっきり言ってこの本はゲームブックとしてのバランスが破綻しています(苦笑)。とにかく難しすぎるのです。まともにクリアしようとするとどうなるかは化夢宇留仁さんの記録を見て頂ければよくわかるかと思います(何人死んだら気が済むの? 参照)。この本にはゲームブックという媒体におけるジャクソンの野心的な試みが満載されていますが、それらは全て読者を罠に嵌めよう、簡単には解かせないぞという意図の裏返しです。彼は読者がステータスを最高値にすることや、指を挟んで先の方を見ることや、死んでもちょっと前の方からやり直すといった「ずる」をすることなどは百も承知の上で、そんなことをされてもそう簡単には解けない、非常に難解で陰険なゲームブックを作り上げてしまいました。そして、これがおそらく彼の考えるゲームブックの最終進化形であり、この作品の発表後彼は小説家の方へ転向してしまいました(詳しくは知らないので正確には「転向したらしい」です)。しかし、おそらくこの作品の執筆以前から「TRPGにはないゲームブックとしての面白さをひたすら追求するとどうなるか」ということが彼にはわかっていたことでしょう。戦闘は二の次、読者を飽きさせない(そう簡単に解かせない)様々な仕掛け、罠…「非常に解きにくい」ということは結局「ゴールに至る道筋がほぼ一つに絞られ(限られ)てしまう」ということです。ゴールに至るまでの、読者が正しい道筋を試行錯誤している状態においては「ゲームブック」として面白い作品であっても、スタートからゴールまでを通して読もうとするとほぼ完全な一本道になってしまう…これでは結局小説と同じことになります(であるからこそジャクソンは「今度は最初から小説を書こうか」という気になったのでしょう)。『モンスター誕生』を経験した後で改めて『ソーサリー』をプレイしてみると、一巻や三巻は極めて自由度が高くゴールに至るまでの道も結構多岐に渉っていて、そのバランスと居心地(プレイ感)の良さに一層シビれます。ホント、原点にしてやはりこれが頂点という感じです。
(余談ですが、ホラ、MSの恐竜進化の果てと言われるZZガンダムってあんまり人気無いでしょ(爆)。行ききり過ぎないゆるいバランスってのも大事なんですよ、うん。…因みに私はZZ結構好きなんですけどね(ずるっ)。)

 幸いなことに日本ではジャクソンが考えた究極進化系とは別の、様々な進化をゲームブックが遂げることになりました。と言ってもゲームブックシステムの中身自体にはさほど違いはないのですが、「作者と読者の知恵比べ」というスタイルとはかけ離れた、ストーリー性重視型とも言える(もちろんゲーム部分も面白いのですが)『展覧会の絵』や、より戦闘システムを複雑にしたもの等、ゲームブック独自の面白さ・魅力を大切にした良質な作品が生まれました。…で、それはそれとして、この記事のタイトルを書いた時の意図と話がずれまくってきたので(汗)無理矢理修正しますが、元々TRPGを凝縮して一人で楽しめる形にしたゲームブックというものは、戦闘システムやステータスを複雑にすればするほどTRPGに近づいて行くということ、であるならばそれをあえてゲームブックでやる必要はなく、むしろ電車でも出来るほどに簡略化、あるいは無視してもなお「面白さが成り立つ」道を模索した方がよいのではないか、そういう事情の元に『ソーサリー』や『グレイルクエスト』は執筆されているのではないか、と、ふと思ったのです。

 もちろん「ずるをしても面白いゲームブックこそ名作ゲームブックと言えるのだ!」とまでは断言しません。しかし、私が面白いと感じるゲームブックは「ずる」をしてもストーリーが面白い、その世界を放浪したり様々な事件に遭遇することが面白い、死に方が面白い(苦笑)、トリックやパラグラフギミックが面白い、人物のセリフが面白い、といったものです。特に『グレイルクエスト』シリーズが好きな方にはこの感覚はよくお分かり頂けると思います。ルールに則って真面目にプレイし、クリア出来るまで何度も挑戦して楽しむというのも一つの(というか正しい)楽しみ方ですが、当時の私にとって、たとえ「ずる」をしてもソーサリーやグレイルクエストは強く印象に残る面白いゲームブックだったのです。

 よく出来たゲームブックというのは読者が「ずる」をすることを考慮しています。いや、「ずる」を考慮というか、「読者を意識」して書かれています(おぉ、やっと話の落としどころが見えてきたぞ)。「ずる」されることを前提で「ずる」されても容易に解けないようにした『モンスター誕生』、「別にずるをしてもそれはそれで構わない(からどうか最後まで読んでね)」という作者の意図を感じるかのような、むしろ「ずる」をすることを読者が躊躇ってしまうほど心地よい作者の暖かさを感じる『展覧会の絵』、読者の「ずる」だけでなく「真面目さ」も何もかもをひっくるめて全てを独自のユーモアの渦に叩き込んでしまう『グレイルクエスト』。先ほど私は「ずるをしても当時のゲームブックは面白かった」と言いました。現在でもゲームブックが好きで楽しんでいる方々はおそらく皆さん同じような「ずる」を経験し、そして「ずるをしても面白かった」ゲームブックをご存知の方々だと思います。そして不幸にも当時「ずるをすると一向に面白くない(能力を最高値にしたり指を挟んで対処すればすぐ解けてしまう)」ゲームブックしか経験しなかった方というのは現在ゲームブックに全く関心がなく「あぁ、あったねそういうの〜」という方々なのではなかろうかと(苦笑)。子供は(絶対とは言いませんが大多数は)ずるをするもの。ずるをしてもなおかつ面白さを感じられるゲームブックに当時出会えた子供(自分)は本当に幸せだったなぁと思うのであります。
(いや、むしろ今でも過去の遺物に魂奪われてる悲しいオッサンオバチャンにならずに済んだ方が人生ラッキーだと言えるのかも…?)

#この文章は夜中に妙な勢いにのって書いたものであり、思い込みや間違いも多々あろうかと思われます。お読みになられた方でお気づきの点がございましたらどうか優しくコメント欄にて指摘して頂けますと有り難いです。


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posted by SeireiK at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | ゲームブック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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