2010年04月25日

モーチュアリー(3)

モーチュアリー(3)>

「重ねた齢は、私の体に重くのしかかっているがな、休み無きものよ」 彼は羽ペンを下へ置いた。「…だが、私はまだ聴覚障害になってはおらぬ」 

彼が助けてくれるだろうか、と私は思った。

「“休み無きもの(restless one)”? 私を知っているのか?」

「知っているか、だと? 私は…」話をすると書記の声に苦痛が伺える。「私がお前を知っていた“ことはない”な、休み無きものよ。お前が自分を知っている以上のことは何もな」 彼はしばらく黙っていた。「お前は忘れてしまったから、知らんのだな?」

「あなたは誰“なんだ”?」

「いつもどおりの質問だ。そして誤った質問だ、いつものとおり」 彼は僅かに前のめりになったが、その動きで急に咳き込み出した。「私は…」 彼は少し休み、息を継いだ。「私は…ダール(Dhall)」。

「この場所は何だ?」

「お前はモーチュアリーにいる、休み無きものよ。またお前はやって…来た…」話終える前に、ダールは突然咳き込んだ。少しして落ち着き、またゼーゼーと呼吸をする。「…ここは、この生(life)の影から離れようとしているものたちのための、待合室だ。

「ここは、埋葬あるいは焼却されるために、死体が送り込まれる場所だ。死体の世話をするのがダストマンとしての我々の責任だ。“生の影”を去り、真の死への道を歩く死者たちのな」ダールは不安に声を落とした。「お前がこの場所を認識しないのであれば、お前の傷は重い犠牲を強いられたに違いない。それはほとんど家(故郷:home)のようなものだな。」

「生の影(shadow of life)?」

「そう、影だ。お前も知ってのとおり、休み無きものよ、この人生というのは…本物(real)ではない。お前の人生、私の人生、それらは影だ。かつて、それがちかちかと明滅していた生の、な。この“生”は、私達が死んだ“後”、最期に落ち着く場所だ。そしてここでは私達は…罠にかかったままなのだ(trapped)。閉じ込められてな(Caged)。私達が“真の死”へとたどり着けるまでは」

「真の死(True death)?」

「真の死は非存在の内に。状態に理由は無く、情熱も無く、感覚も無い」ダールは咳をし、苦しそうに呼吸を整える。「清浄の状態だ」

「何故ダストマンたちが私に死んでもらいたがっているのか、おそらくあなたなら説明できるのでは」

ダールはため息をついた。「決して真の死に辿り着くことができない魂たちが存在すると言われておる。死は彼らを見捨て、彼らの名は決してデッドブックに書き込まれることはないだろう。お前が成したがごとく死から目覚めるということは…お前がその魂たちの一つだということを示唆している。お前の存在は、我らのファクション(faction)には受け入れられないのだ」

「“受け入れられない(Unacceptable)”? 私を良い状態にしておいてくれるようには聞こえないな」

「お前は理解せねばならん。お前の存在は彼らには冒涜なのだ。我々のファクションの多くのものが、お前に火葬を(火葬されるように)命じるだろう…もし彼らが、お前の苦痛に気がついたらな」

「あなたはダストマンだ。だが、私を殺すことに熱心ではないようだ。何故だ?」

「私達の信念をお前に強要するのは公正ではないからだよ。お前は、この生の影をお前自身で断念(give up)せねばならぬ。我々がお前に強要するからではなく、な」 ダールはまた咳き込みそうになったが、なんとか咳を押さえ込んだ。「私がこの地位に留まっている限りは、自分自身の真実を探し求めるお前の権利は、私が保護しよう」

「私は一度ならずここへ来たことがある、とあなたは言う。ダストマンが私を認識しないのは何故だ?」

「私は書記だ、モーチュアリーにやって来るあらゆる抜け殻(shell)の目録作成者(cataloger)だ」 ダールは少し咳き込み、気を静めた。「私だけがスラブの上に横たわるものたちの顔を見るのだ。お前の存在という暗黒(dark)は私がおれば安全だということだ」

「私が誰なのか知っているのか?」

「私はほとんど何も知らぬ、休み無きものよ。お前と共に旅をしたものたちや、今では我らの保護の下で横たわるものたちを少し知っているくらいだ」 ダールはため息をついた。「お前が二度と他人に同行を願うことがないように、私はお前にお願いする(ask)よ、休み無きもの ー お前が歩む所には、不幸(悲惨:misery)が歩む。お前の荷物はお前自身で負うがよい」

「私と旅したものたちがいた? 彼らがここに?」

「下のメモリアルホールに埋葬されている女性の死体を知らぬのか? 彼女は以前お前と旅していたと思ったが…」 ダールはまた咳をし始めるように見えたが、呼吸を静めた。「違っていたか?」

「彼女の体はどこに?」私は尋ねた。私が彼女をどのように知っていたのかはわからなかったが。

「下の階の、北西のメモリアルホールだよ。そこの棺台を調べれば…記念盾(memorial plaques)の一つに彼女の名前があるはず。おそらくそれで、お前の記憶は蘇るだろう」

「私と旅したものたちで、ここに埋葬されているものは他に?」

「まず間違いなくここにおる、が、彼らの名を私は知らぬし、どこに眠るかも知らぬ。お前と同じように、あるものは多くのものが歩んだ道を去り、ほとんど生き残ってはおらん」 ダールは私の周りを身振りで示した(gestured around me)。「あらゆる死者はここへ来る。幾人かはかつてお前と共に旅したはずだ」

「私はどうやってここへ?」

「お前のカビ臭い馬車(chariot:チャリオット。戦闘用の一人乗り二輪馬車、儀式や遊覧用四輪馬車)がお前をモーチュアリーに運んできたのだ、休み無きものよ。お前を運んできたカートに悪臭と膿を置いていった忠臣の数からすると、お前はまるで自分を王族のようだと思うだろうよ。

「お前の体はどこか山の真ん中、死体が積み重なった山の上で蠢(うごめ)いていた」 ダールはまた激しい咳の発作に見舞われ、数分してようやく呼吸が整った。

「お前の“執事”ファロドは、毎度のことだが、モーチュアリー・ゲートにお前たちを投げ捨てては、カビ臭いわずかな銅貨を喜んで頂いておるよ」

「そのファロドとは?」

「彼は…死体のコレクター(colletor:収集人)だ」ダールは不規則な呼吸をし、そして続けた。真の死の道を歩む人々の、その肉体を漁り(scavenge:「清掃する」の意味もある)、彼らが適切に埋葬されるように、我々の所に彼らを運んで来る、そういった者どもが町にはいるのだ」

「ファロドのことを好いているようには聞こえないな」

「尊敬しているものも幾人かはいるがな、休みなきものよ」ダールは不規則な呼吸をし、気を静めた。「ファロドは我々の一員ではない。彼は名誉の印(badge of honor)のように悪評(ill repute)を身にまとい、死体の所有物に勝手なことをする(take liberties)。彼は地位の騎士(a knight of the post)であり、最下層の人間と取引(cross-trading)する不潔な奴(filth:「悪党」もある)だ」 彼は一瞬休み、ファロドのことを考えて顔をしかめた。

「ファロドが我々の壁に運んで来るのは皆、生前持っていたより更に、その小さな尊厳を剥ぎ取られる。ファロドは彼らのこわばった指から引き抜けるものはなんでも手にいれてしまう」

「そのファロドは“私”から何か奪ったのか?」

ダールは休み、思案している。「十中八九、な。お前は何か…特に価値のある物を無くしているのかね?」彼は顔をしかめ、声を落とした。「だが、お前の体に肉体的に結びつけられていないいかなるものに対してもファロドは例外を認めることはないだろうし、時にはそれさえも彼の貪欲な精神を休ませるのには充分ではない」

「私は日記を無くしている」

「日記? もしそれに何か価値があるなら、おそらくファロドの手の中にあるだろう」

その男を捜す理由がまた一つ出来た。

「そのファロドはどこに行けば会える?」

「もしも成り行きがこれまでのように続くのであればな、休み無きものよ、お前がファロドを見つけた時に奴がもがいている水たまりがどんなものであれ、その前に奴の方がお前を見つけ出してまた我々の所に運んで来る機会の方がもっと多いだろうよ」

「そうは言っても、私は彼を見つけねばならない」私は言った。苛立ちが声を尖らせる。

かすかな警告がダールの口調に混ざった。「ファロドを探そうとしてはならぬ、休み無きものよ。お前は何ら賢くはなりはせず、ファロドはまた少し小銭を稼ぎ、そうして単にまた完全な輪(full circle)が巡ってくるだけなのは明らかだ。死を受け入れるのだ、休み無きものよ。お前の不幸の輪(circle of misery)を永遠に続けてはならん」

「私は彼を見つけ“ねば”ならない。彼がどこにいるか知っているのか?」

ダールは瞬時無言になった。彼がついに話しはじめた時には、とても不本意な様子だった。「今の所、どんな溝(どぶ)石の下でファロドが寝ておるのかはわからん、だが私が想像するに、彼はモーチュアリーのゲートの向こうのどこか、Hive(ハイブ:蜜蜂の巣箱の意味)の中で見つかるだろう。おそらくそこの誰かが、彼がどこで見つかるかを知っていよう」

「前にあなたは、私の傷のことを言っていた。どういう意味だ?」

「そう、お前の体を飾っているその傷…まるでその傷は下等な男(a lesser man)を真の死の小道へと送り届けてしまうところだったようだが、しかし、その多くはもう既に完治してしまったように見える」ダールは少しの間激しく咳き込み、そして気を静めた。「だが、それらは単に表面の傷に過ぎない」

私のもの問いたげな表情に対し彼は答えた。「私は精神の傷のことを言っているのだよ。お前は多くのことを忘れてしまった、そうではないか? おそらくお前の本当の傷はお前の表面を飾っているその傷よりはるかに深い…」ダールはまたため息をついた。「…しかし、それはお前にもわかることだろう」

はじめて、私はダールを情報提供者としてではなく一個人として考えた。私はちょっと心配になった(felt a trace of concern)。

「あなたは病気のようだ。大丈夫なのか?」

「私は今真の死に近づいているのだ、休み無きものよ。私がエターナル・バウンダリィ(Eternal Boundary:永遠の境界)を超えて、探し求めていた平穏を見つけるのはもう間もなくだろう。私はもうこの死の球体(this mortal sphere)には疲れた」ダールは耳障りなため息(ragged sigh)をついた。「私のような者には、プレーンはもはや何の不思議も有してはおらぬ。

「私は永遠に生きたくはないし、再び生き返りたいとも思わぬ、休み無きものよ。私には耐えられない」

私は彼のことを考え、新たに発見したこの“心配する”という感情にふけって、しばしの間立ち尽くしていた。しかし、私はモーチュアリーを出る方法を見つける必要があった。

「それならそれでいい、さらば、ダール」私が立ち去ろうとして振り向いた時、ダールが話しかけた。

「知っておくがよい:私はお前を羨みはしない、休み無きものよ。お前のように生き返るということは、私には耐えられない呪いなのだ。お前は受け入れなければならぬ。ある時点で、お前の小道(path)はお前をここへと戻すだろう…」ダールは咳をし、喉をゴロゴロと鳴らした。「それが、あらゆる肉と骨の辿る道だ(It is the way of all things flesh and bone.)。


私は部屋の向こう側の出口の方に移動し、あやうく女ゾンビを押し倒すところだった。



(モーチュアリー(4)へ続く)



<メモ>

I do not yet count deafness among my ailments.
意訳で「聴覚障害にはなっていない」とした。

Dhall's voice drops in concern.
「不安に声を落とす」と苦しい訳。

look about to coughing jag
「look about」ではなく「about to」

The dark of your existence lies safe with me.(上手い訳ではないなぁ)

I asked, even as I wondered how I knew her.(訳しづらい…)
even as~ 〜と同時に 〜にもかかわらず

One such as you has left a path many have walked, and few have survived.(なんだかよくわからん訳に…walkedはa pathにかかると思うのだが…)

loyal subject 忠臣

sharing its fluids with the rest of the mountain of corpses
よくわからない。fluidsを流動体とすると「その流動体(うごめくもの)を死体たちの山の残りと分け合って(分け合いながら)」が直訳か。fluidsを血液や内蔵物の類いと考えることもできそうなのと、share〜with the restをどう取るかが難しい。「the rest(残り)」なのか「休息・眠り」なのか。ニュアンスから「死体の山の上で動いていた」としたがかなり怪しい。

fit of coughing 咳発作

pleased to accept a few moldy coppers to dump the lot of you at the Mortuary gate.
「to dump」が「〜のため」とするとなんだか変。「金のために喜んで捨てる」ならわかるけど…? とりあえず曖昧な訳で逃げる。それと、ここのyouは複数でいいんだと思う。

cross-trading
「先物の相対売買」とか「クロス取引」とか訳語はあるが、訳しづらい。
knight of the post? この後主人公は(ゲーム内で)聞き返す。そりゃそうだ、わからん。でも聞いた後の文章が次の「All Fharod brings to〜」なので、なんで「post」なのかやっぱりわからん。

Most likely たいがい、たぶん、十中八九(ほとんど全て、じゃないのね)

take exception to 「〜に反対(意義)を唱える、〜に立腹する」という意味があるがここでは単純に「exception=例外」でいいはず。

not that〜 〜というわけではない

events persist 成句じゃないみたいだけど面白い表現、かも。

whatever ooze puddle 以下はfindの目的語だと思うのだけど、上手く訳せないから切り離してみた(っていうか日本語になるように訳してたら分かれちゃってた)。←後日訳を修正。

I do not know under which gutterstone Pharod lairs
lairの動詞は「めかしこむ」しかないがここは名詞の意味を取って「住む」だろう。にしても訳しづらい。

would have PP 〜してしまうところだった(がしなかった)

know for certain that きっと〜だろうと思う、〜だということをちゃんと分かっている

far side 向こう側


このゲーム最初の難関、それがこのダールとの会話(笑)。多分このゲームを買った人の大半はここで挫折するのではないかと思われる(私も何度も挫折しました…)。長い、長い、とにかく長い。そして抽象的かつ哲学的な内容。しかも出て来る選択肢がやたら多く、全てを問いただすのはかなりの手間。しかしこの会話がある意味ゲームの内容全てを象徴しているわけで、すっ飛ばす訳には行かないのがツライところ。とにかくここを乗り切ればその後は割と楽にモーチュアリーを脱出出来るので、長い長い英文にひたすら耐えるべし。

2010年04月18日

モーチュアリー(2)

モーチュアリー(2)>

「その鍵が必要なんだ、死体さん…君はこの世が恋しくはなさそうだ」 

メスで数回突き刺し、その死体は今や動かぬ死体へと変わった。鍵を手にいれ、部屋にあるドアの一つを開けた。

「ちょいとアドバイスだ、旦那:今後は黙ってることにするけど ー 必要に迫られない限り、死体を片っ端からデッドブックに入れる(=殺す)ことはないよ…特に女の死体はね。それに、奴らを殺してるとここの管理人を引きつけちゃうからね」

「お前、そんなこと前に言わなかっただろ…誰がここの管理人だって?」

「奴らは“ダストマン(Dustmen・塵人党)”って言うんだ。すぐ見つかる(見失うことはない)さ。奴らは顔面の黒い死後硬直に取り憑かれちゃってる、おぞましい(グールめいた)「死の崇拝者」のイカれた団体なのさ ; 奴らは、人は誰もが皆死ぬべきである、と信じてる…それも遅いよりは早い方がいいとね」

私はその管理人とやらをいぶかしんだ。

「混乱してきた…そのダストマンというのは、私が逃げるかどうかなんてことをどうして気にするんだ?」

「オイラの言うことを聞いてなかったのかい? ダストマンは誰もが死んじまった方がいいと信じてるんだ、それも、遅くよりは早く、だ。アンタだって、今見てきたあの死体どもはさ、とっととデッド・ブックの中に入れられちまう方が外に居るよりいいって思うだろ?」

一度始めると、疑問が次々沸いてきた。

「ここの死体は…彼らはどこからやってくるんだ?」

「死は毎日プレーンを訪れるよ、旦那。このよたよたさんたちはみんな、死後に自分の体をここの管理人に売っぱらっちまうことにした哀れなおばかさんたちなのさ」

「さっき、女を殺すなと言ったな、それは何故だ?」

「アンタ"マジ"かい? いいかい旦那、この死んだ女の子たちはさ、オイラたちみたいなずうずうしい乱暴者にとっちゃラストチャンスなんだよ。オイラたちは“礼儀正しく”する必要がある…鍵のために彼女らをかっ捌いたり、四肢を切り離したり、そんなようなことはしちゃダメだってことさ」

モーテがどこへ導こうとしているのか、私には理解出来なかった。

「ラストチャンス? 何を言ってるんだ?」

「旦那、奴らは死んでる、オイラたちは死んでる…オイラがどこへ行くのかわかる? えぇ? えぇ?」

今や理解は出来た、が、私には信じ難かった。

「ふざけやがって」

「旦那、オイラたちはもう、この足を引きずっている淑女たちと口火を切っちまったんだ。オイラたちは“みぃんな”少なくとも一度は死んじまってるんだ:我々は話すことがあるだろうさ。奴らは、オイラたちみたいな死の経験を持った人々を賞讃する(歓迎する・気に入る)だろうよ」

「だが…待て…私は死んではいないと、オマエさっき言ってなかったか?」

「あぁ…そうだ、“アンタ”は死んではいないかもしれない、でも“オイラ”はそうなのさ。オイラの見地からするとだね、オイラがここで見た、素晴らしくたくましい解剖用死体たちと墓を共有することをオイラは気にしないだろうね」 

まるで先を見越しているかのように、モーテは歯をかちかちと鳴らし始めた。「もちろん、管理人たちは初めにそいつらを分けなきゃいけないんだろうけど、そんなことしそうにないよな…」

モーテは続けた、「いいかい旦那、アンタ死とキッスしちゃった後でまだちょっと混乱してるね。そこで二つ程アドバイス:一つ、もし質問があればオイラに“聞く”こと。わかった?」

「わかった…忘れないようにするとしよう」

「二つ、もし忘れっ“ぽく”なってきたなと思ったら、書き留めるんだ ー 重要“そう”なことに出会ったらいつでも、忘れないように手早くメモすること」

「本来私が持っていた“はず”のその日記を手にいれたら、そうしよう」その日記を奪い去ったのが誰であれ、怒りが沸いてきた。

「新しいのを始めようよ、旦那。無駄にはならないって。この辺りには羊皮紙もインクもたっぷりあるじゃん」

「ふーむ。わかった。やってもいいだろう…新しいのを始めることにしよう」

「そいつは移動経路を残すために使うんだ。重要そうなことがぼんやりとわかってきたら、例えばアンタが誰なのかとかそういう…あるいはもっと重要な、“オイラ”は誰なのか、とかさ…アンタの記憶をリフレッシュするのにそいつを使うんだ」

次の部屋にはさらにたくさんの…ゾンビがいた。彼らは歩き回っており、ほとんどのものが明らかにダストマンによって与えられた仕事に従事していた。だが、とりわけそのうちの一人が私の注意を引いた。その男の死体は、三角を描くように(床を三角形状に)騒がしく歩き回っていた。いったん三角の角の一つに到達すると、そこで止まり、向きを変え、次の角に向かってよろよろと歩くのだ。頭蓋の横には「965」のタトゥーがあった。私が近づくと、そいつは停止して私を見つめた。

「へぇ、このバカにルール・オブ・スリーで歩くのを止めろって言うのを忘れちゃった奴がいるみたいだな」 と、モーテが言った。

「どういう意味だ?」

「この死体たちは、屋根裏部屋(=脳のこと)にそれほどたくさんのものは残っちゃいないんだ、だから一度に一作業以上のことは出来ないのさ…奴らが何かするように命じられたら、誰かが止めろというまでやり続ける。このかわいそうなオバカさんは多分仕事を終えた後で、何も言われなかったんだな。

「“ルール・オブ・スリー”。それはどんな意味なんだ?」

「え?うん、ルール・オブ・スリー(三数法)ってのはプレーンに関する“法”の一つかな、三に通じるように意図されたものだとか…あるいは、全ては三つのパーツで出来ているだとか…あるいは、常に三つの選択肢がある、だとか、その他モロモロ、枚挙に暇が無いや」

「オマエがそれに信念を持っているようには聞こえないな」

「アンタがオイラに質問するんなら、そいつは洗濯一回分だ。もしナンバー(数)を探してるんなら、どんなナンバーでも、そしてそこに偉大な意味を付加しようとするんなら、アンタは偶然の一致を大量に見つけることだろうね」

私は、三角形に歩くその死体を残し、次の部屋へ入った。その部屋の中央には、私が見た中で最初の、生きている人間がいた。明らかにダストマンの一人だ。彼は巨大な本に向かって書き綴っていた。

この書記はかなり老いているように見える…彼の皮膚にはしわが寄り、古い羊皮紙のように黄色く細いシミがある。やせこけた顔には炭灰色の目、そして大きな白いあごひげが彼のローブの前を滝のように流れ落ちている。彼の呼吸はぼろぼろで不規則だが、時折咳をしていても羽根ペンの動きが休まることはない。彼が書き綴っている本には何千もの名前が記されているに違いない。私が近づいた時にも、彼は自分のしていることから目を上げなかった。

モーテが割って入った。「うぉう、旦那! 何やってるんだい?!」

「私はこの書記に話しかけようとしているんだ。私がどうやってここに来たか、彼は何か知っているかもしれない」

「おいおい、アンタのボーン・ボックス(口)をダストマンたちとガタガタ鳴らす(おしゃべりする)のは最期にするべきなんだってば ー」

モーテが暴言を終える前に、その書記は猛烈に咳をし始めた。少しすると、咳の発作は徐々に弱まり、また苦しそうなかすれた呼吸をし始めた。

 「それでさ、我々は“特に”病気のダストマンたちとはオシャベリしちゃダメなんだって。カモン、行こうよ。早くこの場を与えりゃそんだけ、笑いが、賭けが ー 」モーテが終える前に、その書記の灰色の目が私を見て瞬いた。

モーチュアリー(3)へ続く)


<メモ>

basherは注釈があるが訳しづらい。「乱暴者・ちんぴら」くらいの訳が妥当なところか。

Course, 多分「Of course」

a load of wash
「a load of laundry(洗濯一回(分))の変形? 「重荷が洗い流される」の意味か?

The quicker we give this place the laugh, the betー
なんだか全然わからない。「the比較級〜the比較級」だとは思うんだけど…???

2010年03月27日

モーチュアリー(1)

THE MORTUARY

夢:モーチュアリー(死体置場・霊安室)のスラブ(石製の死体置台)に横たわっている。名前で覆われた柱。頭蓋骨の棚(ラック)。シンボル(記号)。女。ゴースト。

 奇妙なことに、モーチュアリーのスラブの上で私は目覚めた。起き上がる時、目の端が動くものを捉えた。宙に浮かぶ頭蓋骨。いや、それが話しかけた時私は悟った:宙に浮かぶ、話をする、頭蓋骨だ。

「よぅ、旦那。大丈夫かい? 死体遊びしてるのかい、それともダストマンたちの目をくらましてるのかい? アンタは確かに死んでると思ったんだけどなぁ」 私は混乱し、その髑髏の言うことに集中できなかった。

「何…? お前は誰だ?」

「う〜…“オイラ”が誰かって? “アンタ”から始めない? アンタは誰?」

「私は…わからない。思い出せない」私は、自分自身について何も覚えていないことに気づいた。

「自分の“名前”が思い出せない? へぇ。Well, 次にこの山(in this berg)で野宿する時には、飲み過ぎもほどほどにしときなよ(go easy on the bub)。オイラの名はモーテ。オイラもここに閉じ込められてんのさ」

「閉じ込められた?」

「おう(Yeah)、アンタがまだ足を動かす時間がなかった間に、ちょっとあってね:ドアは全部試したんだけど、この部屋は貞操帯よりがっちり閉まっちゃってんな」

私には順応する必要が、そして今どこにいるのかをこの骸骨から知る必要があった。

「私たちは閉じ込められているのか…どこだ?この場所は何なんだ?」

「“モーチュアリー”って呼ばれてるな。孕んだ蜘蛛の建築の魔法(architectural charm)がかけられてる、でっかくて黒い建物さ」 私は死んだということか? 記憶が無いのはそのためなのか?

「“モーチュアリー”? 何…私は死んだのか?」

「オイラが見る限りそうでもなさそうだけど。でも、アンタは体中傷だらけだけどな…まるでどっかのチンピラがナイフでペイントしたみたいだ。その傷つけた連中が誰にせよ、また止めを刺しに戻ってきたらますます楽しいことになりそうだね」

「傷? ひどいのか?」

「そーだなー(Well)…胸の傷は、そんなにひどくないな。でも背中のは…」 モーテは一息ついた。「なぁ、アンタ背中に刺青ギャラリーしょってるみたいだ。何か書いてあるよ…」

私は自分(の体)を見渡し、傷についての真相を悟った。肌がほとんど見えないほど傷で覆われている。腕には同様にタトゥーがある。夢で見たのと同じものだ。だが、背中の刺青とはどんなものだろう。

「背中に刺青が? 何と書いてあるんだ?」

「へぇ、指示でも書いてありそうなのかい…」 モーテは咳払いした。「ええと…こう書いてある…」

[お前はすでに Styx 川(三途の川)の水を樽で数杯は飲んできたような気分になっていることだろうが、自分自身の内面に意識を集中する(CENTER yourself)必要がある。持ち物の中にある、「日記」が暗闇を照らす光となるだろう。ファロド(PHAROD)が、何が起きたか残りの説明をしてくれる。彼が既に dead-book の中にいる(死んでいる)ことがなければ、の話だが]


「ファロド…? 他には何か?」
「Yeah、もうちょっとある…」 モーテは一息ついた。「ええと… 続いて…」

[日記をなくすな。さもないと結局また Styx 川に行くことになる。そして何があっても、自分が誰なのかということと、自分に何が起きたかということは誰にも話してはならぬ、さもないと話を聞いた者はお前をあっという間に火葬場への旅(死出の旅)へと送り込んでしまうだろう。私の言ったとおりにせよ:日記を読み、そしてファロドを探せ]


「背中が痛むのも無理はない;途方もない物語が彫ってあるな。その日記は、私が持っているはずのようだが…ここに寝かされている時近くにあったか?」

「いや…アンタはここに来たとき丸裸だったね。でもさ、体中に書かれてる日記だけでもう充分なんじゃないの」

この骸骨はたいした助けにはならなかった。

「ファロドについては何か?お前は彼を知っているのか?」

「オイラは誰も知らないよ…ってか知ってる人なんてほとんどいないし。でも(still)、チンピラの何人かはファロドの居場所くらい知ってるんじゃないの…う〜、一度ここを出てからの話だけど」

「どうやってここから「出る」んだ?」

「Well、ドアは全部閉まってるから、鍵が要るね。たぶん、この部屋の中にいる歩く死体(walking corpses)のうちの一人が持ってる」

「歩く死体?」 私は尋ねた。

「ああ、モーチュアリーの管理人は死体をお得な労働力として使ってるんだ。死体たちは石っころみてぇに鈍いんだけど、無害だし、アンタが攻撃したりしなけりゃ襲ってきたりはしない」 

殺すということを考えると、どういうわけか、不安な気分になった。

「他の方法は無いのか? 鍵のためだけに彼らを殺したくはないんだが」

「何だい、奴らの感情を害するとでも思ってるのかい? 奴らは死んでるんだぜ。だが、アンタが前向きに考えたい(want bright side)って言うんならさ:もし奴らを殺せば、少なくとも奴らは休めるってわけだ、奴らの保護者が再び奴らを起こして働かせに来るまではね」

「わかった…彼らの一人を倒して鍵を奪おう」

私は、感情無さげに部屋をうろついているゾンビの一人に近づいた。その死体は立ち止まり、うつろに私を眺めた。彼の額に「782」という数字が彫り込まれ、唇が縫い合わされているのがわかった。その体からはホルムアルデヒドのかすかな臭いが漂っていた。

「こいつはラッキーな請願者(petitioner)だね、旦那。見なよ…ヤツの手に鍵があるぜ」 モーテに言われるまでもなくわかった。そいつは左手に固く鍵を握りしめ、死後硬直した親指と人差し指を閉ざしていた。鍵を奪うためには、死体の手を切り取る必要があるだろう。

鍵を奪うには武器が必要だった。部屋の中の棚を調べ、医療用のメスを見つけた。モーテはずっと私につきまとっていたが、そこで口を挟んだ。

「よし、メス発見! さ、死体どものとこへ行くぞ…心配すんなって、オイラは離れていて、役に立つ戦い方をアドバイスしてあげるからさ」

「お前は助けてくれるんだろうよ、モーテ」

「助けてあ・げ・る よん。良き助言とは得難きものなり」  

私は突然、このぺちゃくちゃうるさい骸骨に腹が立った。

「私は、死体を攻撃するのを手伝えという意味で言ったんだが」

「オイラが? オイラは兵士じゃなくてロマンチストなんだ。邪魔になるだけだろって」

「私がこの死体を攻撃する時にはすぐそばにいた方がいいぞ。さもないとその次にこのメスを突き刺す相手はお前だからな」

「えー…わかったよ。手伝うって」 

私は再びゾンビに近づいた。


モーチュアリー(2)へ続く)



<メモ>

You can't be serious.
「まともじゃないな」と訳していたがイディオムとしての意味があったので変えた。

you putting the blinds on the Dusties?
「put a blindfold on 〜に目隠しをする」の変形として訳した。

go easy on the bub 「赤ん坊には優しく行こう」かなぁ?
berg 山???

They covered every visible bit of skin.
(ちょっと怪しい訳)

death grip 死後硬直として訳してみた。



<ちなみに>

 敬愛するちょこっとTormentさんにも冒頭部の訳があります。読み比べて訳出の違いをお楽しみ頂ければと思います。

AUTHOR'S NOTE

AUTHOR'S NOTE

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部分著作権 (c) 1999 インタープレイ プロダクション 版権所有
商標は所有者各々の物である


オーサーズ・ノート(著者注)

 プレーンスケープ・トーメントを何度かプレイした後でさえも、私はまだ、いくつかのシーンをリプレイし、素晴らしい会話を再び通読することに楽しさを覚えます。私が本当に好きだったのはゲームにおける会話リストであり、そしてそれが、ここであなたが読んでいるこのプロジェクトをもたらすこととなりました。

 こういった直線状のフォーマット(書式)においてダイアログツリー(会話の階層・系図。全選択肢とかフローチャートとかああいうもん)をそっくりそのままゲームから引っ張って来ると、不格好になるでしょうから(扱いにくいから)止めました。代わりに、ゲームを通して一本の道筋に従い、素材ソース(生のログ)から書かれた物語を作っていきました。引用符付きの会話(ここでは鍵カッコ)は、他の多くの素材(生ログ)と共にゲームから直接取ってきて、ただ気軽に編集したものです。

 完全な、連続したストーリーを読むことが出来ます。ストーリーやキャラクターの相互関係に集中できるよう、ゲーム内の戦闘の大部分は削除し、いくつかのセクションとキャラクターは完全に省略しました。それでも全ドキュメントは(英単語で)150000語になりました。ストーリーの選ばれた部分を再読する際、あるセクションを飛ばしてしまうことも出来ますが、願わくばその文章を味わう新たな機会を得て頂いて、以前には詳しく調べなかったダイアログオプション(会話のバリエーション)を発見してください。

 もしあなたがプレーンスケープ・トーメントをプレイする前にたまたまこれを読んでいるのであれば、そして読んでいるものが面白いのであれば、ゲームを手にいれてプレイしてみて下さい。実際のゲームには、素晴らしい声演、音楽、画像、ゲームシステムがあり、より豊かな経験となるでしょう。

 もしこの文章が、一切手を加えられることなく配布されるのであれば、どんな形態であれ、配布に関して何の費用も発生しないことを望みます。プレーンスケープ・トーメントに従事したブラック・アイルの全チーム、特にストーリーと会話に携わった方々に感謝致します。

 Rhys Hess
 rhyshess@hotmail.com




 訳者注:カッコ内の単語や文章は、訳者であるワタクシ SeireiK が勝手に補足したものです。

訳者前書き

 私は翻訳家でもなんでもないので優れた訳出は致しません(したくても出来ません)。下手に意訳して原文のニュアンスを損ねるより、不自然で固い日本語表現になっても出来るだけ逐語訳したいと思います。また、ゲームで使われている様々な独特の言い回しに関してもそのまま訳しますので、「意味が分からん!」という方は用語集(これもそのうち訳します)をご参照下さい。

(例:「デッド・ブックに書く・書かれる」という表現は「殺す・死ぬ」という意味なのですが、「殺してやろうか!」という意味で使われている場合、そう訳した方が分かりやすいにも関わらず「お前の名前をデッドブックに書き込んでやろうか!」といちいち訳す、ということです。そうしないと作品そのもののニュアンスが変わってきちゃうと思うので)

 また、一つの単語には大抵複数の訳語があるわけで、その中のどれを選んで訳出すればいいのか分からない場合は複数の訳をカッコに入れて記したり、完全にお手上げの場合や、英単語そのもののニュアンスやシャレ(掛詞)を示したい時には原語をそのまま載せたりします。「この単語はこういう意味なのでは?」とか「この解釈は間違ってんじゃないの?」とか「こういう訳し方の方がいいんじゃないの?」とか御意見がございましたらコメントをどうぞよろしく御願い致します(自分だけの手柄にするために自分だけの力で訳そうなどという大それたことは全く考えておりませんので、指摘された内容について私が納得出来る場合はどんどん訂正していきたいと思います)。

 とにかく「原文ありきの訳し方」みたいな訳なので、訳文だけを読むのではなく必ず原文と照らし合わせて御読み下さい。


 以下は訳出に関する個人的な約束事です。訳が進むにつれて追記していくことになります。

・モーチュアリーのセクションは文章がやたら長いので分割します。

・Sigilの訳語は日本語版マニュアルに則って「シジル」とします。その他、Pharodなど日本語マニュアルに載っていた人物名に関してはマニュアルのカタカナ表記に従います。

・差別的用語について:ゲーム中にたびたび、例えば「blind」というような単語が出てきます。そして、もちろんゲーム中では相手を差別する目的でわざと使われていたりするわけなので、ニュアンスを正確に表現するのであれば「めくら」などと訳すべきなのですが、こういった単語に関してはあえてニュアンスを重視せず「盲目」と訳すことにします。

・大文字で書かれている単語等は基本的にボールド書体にします。

前置き及び目次

 「Planescape Torment」にはゲーム中の会話ダイアログを元に作られた、Rhys Hess 氏の手になる小説があり、Web上で公開されています。この「Web公開版小説」を訳していくという試みをやってみたいと思います。長いので企画倒れになる可能性大です(爆)。


<目次>

訳者前書き
オーサーズ・ノート(著者注)

モーチュアリー(1)
モーチュアリー(2)
・DEIONARRA
・ハイヴ
・モーテ、パート1
・ハイヴ マーケット
・迷路
・スモールダリング・コープス
・DAK'KON、パート1
・ラグピッカーズ スクエア
・ベリィド ビリッジ

(以下逐次追記)